2019年に「ほぼ日刊イトイ新聞」より発売された『岩田さん』を紹介します。
はじめに
正直に白状しますが、岩田さんのことをほとんど存じ上げませんでした。
僕がMOTHERファンということで、MOTHER2の開発が頓挫していたとき、窮地を救った恩人だと言うことは知っていましたが、本書の発売とともに起きたSNS上の盛り上がりで、初めて「岩田聡さん」という方を知り心に刻むに至りました。
お恥ずかしい事実ですが、ありのままの心の内を書かせて頂きました。
さて、本書は、様々な読み方ができると思います。任天堂、HAL研究所など日本ゲーム業界における立役者の伝記として、ゲーム会社のマネジメント本として、多くの岩田さんを愛する人に向けたエッセイ集として。
現代のような数多の有名人が盛衰を繰り返す中で、ゲーム会社の社長の伝記が書かれた。
偉業というよりは、その人の心を残そうという想いから本が作られた。
その事実に驚愕しました。
本書を読んで、本書をコアなゲームファンだけでなく、むしろ僕のように「岩田さん」を知らないようなゲームファンの手に届けばと思いました。
それは、ゲームが好きであり続けることは難しい。そんな悩みを克服したいというブログをやっているからという理由が大きな部分を占めます。
本書を読んだとき、「この本を読んで救われる人はたくさんいる」と思いました。
岩田さんを知らない人こそ読んでほしい
僕が読んでもらえたらと思うのは次の2つの人たちです。
1.ゲームがもっと好きになれたらと願う人に
一般のゲームを楽しむ人には、ゲーム業界のことも分からなければ、手掛ける人たちが何を考えて作っているかも知ることが難しいのではないかと思います。
知る努力が足らないと言われたらそれまでですが、ライトゲーマーには情報が入りづらいというのも実情だと思います。
だからこそ、「ゲーム業界をこういう人が作ったんだ。」、「たくさんの人の幸せを願ってゲーム作ったんだ」と分かれば、きっと無機質に感じられたコンピュータゲームの世界が温かなもの変わるでしょう。
個人的に映画の特典映像のように、ゲームのクリア後に製作者のインタビュー映像が見られたら良いのにと常々思っていたりします。
社会に蔓延するゲームに対する悪いイメージによって、ゲームをすることに罪悪感を感じてしまう人も多いのではないでしょうか。(このことを岩田さんも仰っていました。)
僕自身ゲームファンであったのにも関わらず、イメージが飛躍的に良くなったということは、ゲーム業界に知らず知らずのうちに不信感を抱いていた事実を実感させられました。
けれども、岩田さんだけでなく本書に登場する、糸井さん、山内さん、宮本さんらゲーム開発者の方々の情熱を見て、少なくともクリエイターに向けられた不信感はなくなり、ゲームを生み出す希望に満ちた世界が見えてくるはずです。
2.社会で上手く行かない人に
僕もそういう時期がありました。
岩田さんの美学であり、人との繋がりの中で働くとはこういうことだという哲学に触れ、「だからダメだったのか」、「こうすれば良いんだ」とハッと気付かされるとともに、真理を見抜く鋭さにはひたすら敬服しました。
そのため、「もっと早くこの本に出会っていたら」と心底思いました。
本書では岩田さんのマネジメントの手腕や業績に目を取られがちかもしれませんが、岩田さんの本当の魅力はそこではないと僕は思います。
肝心なことは、ゲーム業界や仕事といった枠組みを超えた、人としての魅力です。その生きる姿勢はあらゆることに通ずると思います。
それは一つには、物事をとことん突き詰めて考える論理的思考であり、仮説思考から答えをはじき出す明晰さです。
しかし最も重要なことは、岩田さんの人柄の良さなのだと言うことは明白でした。謙虚で、驕らず、他者を喜ばせることを大切にする、他人本位とも言える性格が成功の鍵であり、だからこそ多くの人が本書の登場を望んだのでしょう。
本書には、岩田さんの大切にしていた信条が、エピソードや「ことばのかけら」として詰まっています。きっとみなさんの琴線に触れるものがあるに違いありません。
以降は、岩田さんの手掛けたゲームとそれにまつわる個人的なことを書きました。
岩田さんの手掛けたゲームにまつわる思い出
岩田さんの手掛けたゲームの紹介というわけでもありませんが、
手掛けたゲームとそれにまつわる自分のゲーム人生を振り返ってってみました。
みなさんの思い出ゲームは何ですか?
代表的なソフトで言えばゴルフ、バルーンファイト、星のカービィ(夢の泉の物語)、スマブラなどは30代以上の方ならどれも馴染みのあるソフトではないでしょうか。
『夢の泉の物語』は作品を間違えて攻略本買ってもらったため、ソフトはやったことないけど、攻略本を眺めて遊んだある意味特別なソフト…ってなんだそれ(笑)この攻略本がまた細長くって懐かしい。
『ゴルフ』は1984年に発売されたファミリーコンピュータのソフトで、キャラクターがマリオ(公式によるとマリオではないらしい)ということが印象に残っています。我が家にありましたし、親戚の家にもありました。
題材がメジャーなスポーツということで、持っている家庭はきっと多かったのではないかと思います。まさか岩田さんが作られたとは。
残念ながら僕はまだ幼くて遊べませんでしたが、記憶の奥底にあるゲームの画面がゴルフ。ついでにマッピーです。
『バルーンファイト』は友達のおばあちゃんの家で遊んだことを覚えています。
「友達のおばあちゃんの家とか、何それ?」と思うかもしれませんが、孫の友達が押し掛けても遊ばせてもらえるというのが、当時はまだ割りと子供の行動に寛容な世の中だったのかもしれませんね。(もちろん友達がいての話です。)
アイスクライマーやドンキーコングが一緒に並んでいたのを覚えています。これらのソフトは後々スマブラの登場で知名度が上がりますが、ファミコンで定番のソフトだったのかなーなんて思います。
今じゃ考えられませんが、二人プレイ(交代制ではなく二人同時プレイ)で遊べるソフトは多くありませんでした。また、可愛らしいデザインのキャラクターと風船割りという子供心をくすぐる遊びをテーマにしていたのは秀逸だったと思います。
岩田さんだけでなく横井軍平さん、坂本賀勇さんと言った名だたる方々と共に制作された作品です。
バルーンファイトは相手の風船に接触して風船を割るのですが、そもそも操作が下手な子供ですから、すぐ水に落ちたり魚に食べられたりしてあっという間に勝負がついてしまいます。その束の間の勝負が、当時小学生低学年くらいの子供達には、丁度良かったものです。
なお、調べたところ二人プレイは協力してステージを攻略するという遊び方もあったらしいのですが、二人がコントローラーを握ったら「世界にヒーローはふたりもいらない!!」という展開になるのが世の理というやつです。
5回くらい遊んで、「…(数秒の沈黙)外で遊ぼうか」の流れはファミコンあるあるではないでしょうか。
HAL研と言えばなんと言っても、『大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)』は外せませんよね。今や国民的大ヒットシリーズで、男子なら義務教育の一貫です。僕がこのソフトを最初に遊んだきっかけは、コアなゲーマーの友達が家にソフトを持ってきたことでした。CMが放送され始める前だったので、おもちゃ屋にあっても誰も気付かないような状態で、今から考えると友達恐るべし。
マリオやカービィなどの任天堂の人気キャラクター同士が殴りあうというゲームに、初めて見たときは戸惑いを隠せませんでしたが、ゲーム少年が今まで遊んできた任天堂のゲームソフトの世界が詰め込まれた宝箱であり、記憶の中の数々のヒーロー達、様々なステージやアイテム、BGM、しかもなんと言っても4人で遊べる!ということであっという間に虜になりました。
その友人や僕(自分たちが遊ぶ風景を見ていた兄がソフトを即購入)がクラスに広めたことで、毎日のように誰かの家に集合しスマブラをやるという慣習ができ戦国時代が始まりました。リアルファイト、コントローラー引っこ抜き、誰と共闘し生き残るかの駆け引き、スマブラはシリーズは違えども多くの方の青春の一ページなのではないでしょうか。
ここまで、ソフトを取り上げてきましたが、岩田さんが主導し開発されたハードは革命的であり、未だにつくづく素晴らしいなと思わずにはいられません。
2004年に発売された『ニンテンドーDS』の二画面やタッチペン入力、マイク入力は画期的でした。今まで、1つの画面を見ながら、コントローラーのボタンを押して操作するというスタイルに慣れ親しんできた分、二画面の表示を活用した表現やタッチペンの入力という操作はそれ自体が「楽しい!」と感じられるものでした。
タッチペンやマイク入力のおかげで直感的な操作が可能になり恩恵を受けたソフトはたくさんあると思いますが、個人的にはアドベンチャーゲームが飛躍的に面白くなったことが印象深く記憶に残っています。旧来のコントローラーで遊ぶアドベンチャーゲームはコマンド選択のじれったさがありますよね。
具体的には、『DS西村京太郎サスペンス 新探偵シリーズ』(おすすめ!) や『逆転裁判』を遊ぶとき、まるで自分が捜査官になった気分でタッチペンを使って人・モノを指し、文字をなぞります。そして逆転裁判ではタッチペンだけでなくマイク入力を使って科学捜査を、法廷では「異議あり!」、「待った!」など音声入力を使い臨場感たっぷりに楽しむことができました。
直感的なプレイはゲームの世界への没入を助けますね。
叫ぶのを恥ずかしがったら負け!
長くなりましたが、最後に2006年に発売された『Wii』のことに触れたいと思います。
なんと言ってもWiiリモコンには度肝を抜かれました。
リモコンに搭載された3軸加速度センサーが可能にした様々なアクションは、未来的とも言えるシンクロ感を生み出しました。
まずは、任天堂ファンが通ってきた道であろう『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』で言えば、リモコンの縦振り、横振りに合わせてリンクが剣を振る。この一体感はあたかもゲームの主人公になったかのような夢見心地にさせてくれました。正確に言えば、自分の体は画面の外にあるけれど、自分の神経がゲームのキャラクターに走っているような感覚です。
ゲームやアニメ好きならば、「.hack」のようにバーチャルの世界に入り込む、「機動武闘伝Gガンダム」のようにロボットに自分の動きをトレースさせて戦うなどの世界を夢見たことがあるのではないでしょうか。
その領域にはまだまだ遠いかも知れませんが、技術の飛躍を感じたのは確かです。
今じゃVRが開発され、凄い勢いで時代は進んでいるなと思います。
『バイオハザード クロニクル』シリーズ(バイオシリーズ伝統のアクションゲームではなく、画面が自動で切り替わり展開が進むガンシューティングゲーム) では、リビングがあっという間にゲームセンターのシューティングゲーム筐体に変わります。個人的にリモコンを振ってリロードする瞬間が好き。
そして、最たるものが『メトロイドプライム3 コラプション』だと思っています。
レトロスタジオが開発、任天堂が販売したFPS(ファースト・パーソン・シューティング)ゲーム
- 照準をリモコンで定めるのはもちろん、リモコンを向けた方向にサムス(主人公)が向く。
- 宇宙船やマシンのレバーをリモコンの上げ下げで動かす。
- リモコン(手首)をひねってレバーを回し、リモコンを前後することで押し込み、引き出す
- リモコンに接続したヌンチャクを振りムチ状のビームを飛ばして対象をとらえ、振り上げて引っ張る。
このサムスとのシンクロ感は、恍惚さを感じるほどです。
余談ですが、本記事を書くにあたって、岩田さんのことを調べていたら、メトロイドプライム3で隠しコードを入力すると岩田さんの肉声メッセージが聞けることを知りました。
すぐさま、Wiiを引っ張り出し、件のメッセージを聞いてみると、糸井さんが甲高いと評する岩田さんのちょっと高い声で、冗談っぽく愚痴を言っているのが聞け、思わず頬が緩みました。
メトロイドプライム3をお持ちの方はこちらのコードを入力して下さい!
ライトユーザーもコアユーザーも大切にし、「現状と違う方向」を目指した岩田さんがいたからこそ、これほどの遊び心溢れる素晴らしいゲームが生まれてきたのだと確信しました。
MOTHER2のファンにも読んでほしい
本書にかこつけて、自分のことを書くのは、無作法なことだというのは重々承知しています。
しかしながら、MOTHER2の批評を2019年に書かせて頂き、その後本書を読んで感じた感慨深さや至らなさを少しばかり話すことをご容赦下さい。
というのも、MOTHERシリーズ30周年の年に(そんなこととはつゆ知らず)最も好きなゲームであるMOTHER2の批評を書く機会を得て、MOTHER2の恩人である「岩田さん」の本が発売されたことに何か縁のようなものを感じたからです。
そして、MOTHER2のファンの方々にも岩田さんのことを是非とも知ってもらえたらと思います。
※ネタバレを含みますのでご注意下さい。
本書では、MOTHER2のことが少なくない文量で取り上げられています。
「ほぼ日」の本ですしね
MOTHER2の開発が頓挫していた時に岩田さんが窮地を救った話は知っていましたが、その詳細は本書を読んで初めて知りました。
岩田さんが「今のままでやると2年かかります。やり直せば半年でできます。」と言ったエピソードは本書で糸井さんが懸念しているように、僕には不遜に感じられ、正直に言うと偉そうなイメージがありました。
しかし、その言葉の裏で岩田さんが謙虚な姿勢であったこと、製作陣本位であることを重視し、スタッフ全員が使用できるツールを作ったこと。
岩田さんの人柄が現れるこの尽力によって、ただ単にプログラムを書いてMOTHER2を救ったのではなく、製作陣に最大の敬意を払い、製作現場そのものを救った人であったということが分かりました。
この事実をウェブサイトから見つけられなかった。あるいは、失念していたというのは、「まだまだだったな」と痛感しました。
だからこそ、「僕のようなMOTHERファンに本書が読んでもらえたら良いな」と思います。
【以下、批評を通した感想文めいたものです。m(_ _)m】
本書ではMOTHER2を岩田さんにとって特別な作品として語っています。
そこに書かれていることが、MOTHER2の批評を経験したことで、ありありと伝わってきました。
批評に書いたこと、そして読んだ方々から頂いたコメント、MOTHER2の特別感、魅力的な仕掛け、糸井さん。
みんなが好きなところもあれば、音楽、セリフ、シーンなど、人それぞれのここだというポイントもある。それも魅力だと言うこと。
そして特別感を語るには、やはり糸井さんのことを書かざるを得なかったその理由。
実は批評を書く当初、ソフトの素晴らしさをひとりの製作者に帰結させたくはないと思っていたため、糸井さんのことを語るかは悩みました。
それはゲームのスタッフロールに流れる名前をしげしげと見つめることが楽しみな自分にとって、ゲームはシナリオ、プログラム、音楽、グラフィックなど多くのスタッフが携わって作り上げられるものだからです。
岩田さんは「MOTHER」が特別な理由は糸井さんという豊かな経験をしてきた方がいたからと述べています。
どれだけ多彩な人との関わり、そして思い出を具に刻む心があればこれほどのゲームが作れるのだろうかと思っていた僕は「やはりそうでしたか。」と答えをもらったような気がしました。
また、「子供も大人もおねーさんも」というキャッチフレーズや家族の暖かさがこもった「2時間パパ」のシステムは岩田さんにも影響を与えたそうです。
あっと驚かせる仕掛けの一つとして取り上げた地下大陸の仕掛けは、なんと岩田さんが一役買っていました。
「うんうん分かります。」全てが岩田さんの言葉を通してふっと心に沁みました。
批評を通して1%でも岩田さんと同じ景色が見えていたのなら、なんて素敵なことか知れません。
何より、MOTHER2が特別な理由は岩田さんがいたから、ということを思い知り、MOTHERと聞いて思い浮かべる顔が増えたことは幸せな経験でした。
さいごに
本書『岩田さん』は、複数のオンラインストアで購入できますが、
ほぼ日刊イトイ新聞で購入すると「Iwata-Sanキーホルダー」が特典として貰えます!
糸井さんのファンであれば、ほぼ日のロゴが入った梱包袋も嬉しいところ(?)
しっかり、押入れの中にしまってあります!
詳しくは、ほぼ日のサイトを御覧ください!!