【本記事の趣旨】
ゼノサーガⅢのプレイ日記が中盤に差し掛かり、続々と謎が明かされ、面白さが急上昇しております。
そんな中、本シリーズは難解な用語をふんだんに使用しており、「物語がよく分からない」と感じる方も多いことでしょう。
今回ゾハルやグノーシスなどの用語が何を意味しているのか、というところを調査してみました。
そこから、本作の物語って結局どういう話なのか、どのようなエンディングになるのかという点について推理したいと思います。
【クリア後追記】
明かされた真実からは、考察に多くの誤りがあることが分かりました。(当然っちゃ当然ですが)
趣旨に書きました通り、「本シリーズは考察することが楽しい」ということをお伝えできればと、この記事を作りましたが、おおはずれな予想もあり顔から火が出る思いです。
本作の概念群については、「二次創作的ゼノシリーズ考察」というサイト様が大変緻密に考察されており、おすすめさせていただきます。
削除した方が良いかとも考えましたが、自分自身で読んだときに、「当時こんなことを考えたのか」と想像を巡らせていた世界が蘇るようで思い出深く、残しておくことにしました。
せめて、概念群の元ネタやその関連書籍を知る手がかりになりましたら幸いです。
~ここから妄想~
ゼノサーガってどういう意味?
タイトル名のゼノサーガってそもそもどういう意味だろう?と気になるところですよね。
“xeno“はラテン語で異端、異質、異種という意味であり<参考:http://incunabula.sonnabakana.com/ratinapage.html>、
“saga“は北欧文学における歴史的、神話的人物の物語という意味です。
つまりXenosagaは異端者の物語という意味になります。
異端者の物語というとなんだか奇妙な気がしてきますが、本シリーズの登場人物を見ていくとそれほどおかしくもありません。
シオン…虚数領域が見える異能者
ジン…シオンの兄、経歴に謎が多いが常人離れしている、
KOS-MOS…アンドロイド
ケイオス…謎の人物、虚数領域と接触可能
M.O.M.O…レアリエン
ジギー…サイボーグ
Jr.…U.R.T.V(デザイナーズチャイルド)
以上、メインキャラクターを見ただけで分かる通り異端者しかいません。
人間だけでなく人の手で創られたものまで様々なアイデンティティをもつキャラクターが織りなす物語が本作の魅力です。
それだけでなく、
オルムスの異端審問官
異端思想であるグノーシス主義
など、異端を思わせる用語が使われています。
だったら、異質で良いじゃないかと思うでしょうが…異端ってカッコいいじゃないですか…
ゾハルを巡る物語
本シリーズの鍵となるモノがゾハルです。
EPⅢの中盤に至っても、ゾハルが何なのかは明かされていませんが、ヴィルヘルムやオルムス、ディミトリなどの敵がこぞって手に入れようと画策しています。
とは、ユダヤ教神秘思想(カバラ)の中心となる書物です。ユダヤ教の聖書として旧約聖書やタルムードがある中でカバラは第三の聖典とも呼ばれています。
カバラの教義において、本作において関係ありそうなこととして、以下の事柄があります。
神は世界に顕現したときの形態と、不可知の形態がある。
<参考:1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365>
神は無から宇宙を創造した(天地創造)。
神の力は段階構造になっており(生命の樹)、上層は神の世界、下層は人間の世界となっている。
人間が上層の世界へ向けて意識を拡大することにより、神の英知に近づくことができる。
<参考:月刊レムナント 2018年7月号 幸福と成功を引き寄せるもの:聖書の視点を持つことで人生は豊かになる!>
魂は個体の記憶の集合であり、死後それぞれの個体の記憶は神へと還っていく。
<参考:Wikipedia>
これらの点が関係性がありそうと判断した理由は、以下の通りです。
- 宇宙の創造はKOS-MOSの名前から連想される事柄なので、本作のクライマックスにかかってくるのではないか。
- 世界に階層があり、不可知である神の世界と物質的な人間の世界に分かれているという考え方は後述のグノーシス主義と酷似しているため、本シリーズにおいて両者の概念を融合させているっぽい。
- 意識について、本シリーズでは、死者の意識が無意識の世界であるU.M.N.に還っていくという発言があり、一致している。
ちなみに、宇宙の構造のことをセフィロースと呼ぶらしく、FFⅦのセフィロスの名前の由来はここから来ているんでしょう。
とは言え、本シリーズにおいて、ゾハルがどのような力をもたらしてくれるのかは未知数です。宇宙創造の力なのか、真理の悟りなのか、願いをなんでも叶えてくれるのか、世界征服なのか…
物語をさらにややこしくする原因として、
ゾハルとの接触において、さらに様々な概念が絡んでくることがあります。
そこで登場するのが、レメトゲン、アニマの器、U.M.N.などなど…。もう、列挙するだけでお腹いっぱいなのですが、ここら辺へ踏み込んでみようと言うのが本記事の挑戦です。
レメトゲン
[本作設定]ゾハルの制御プログラムであり、ある特定の波長を生み出すもの。
[元ネタ]悪魔や精霊を呼び出す方法について書かれた魔術書のこと。グリモワール、グリモワ、グリモアと呼ばれる。
本作で、レメトゲンを作り出した人物がグリモア・ヴェルムとなっているので、元ネタはグリモワールで間違いないと思います。
おそらく、ゾハルに接続するキーであるレメトゲンが神を呼び出すものとしてグリモワールと似た意味合いがあるためレメトゲンという言葉を用いたんでしょう。
U.M.N.(ウードゥス・ムンドゥス・ネットワーク)
[本作設定]宇宙を結ぶ広域情報ネットワーク。ウードゥス・ムンドゥスとは、C.G.ユングが唱えた“集合的無意識”であり、本作独自の解釈として、U.M.N.は物理学のややこしい難問を解決できる超真理的な扱いをしている。”人の意識の結びつき”と”情報ネットワーク”が一体化されたものを想像してもらうと良いでしょう。
[元ネタ]C.C.ユングの概念”集合的無意識”。無意識とは神秘的なものじゃなくて、人間の頭脳はほとんど同じなんだから、潜在的に似通った傾向の意識をもっている。なので、人間の人格を形成する無意識のうちのある程度は普遍的≒集合的だという考え方。なお、ユングの著書『自我と無意識』ではウードゥス・ムンドゥスという表現はされていないため、本作のウードゥス・ムンドゥスという言い回しがどこから来ているのか、本作オリジナルなのかは謎。
本作のU.M.N.と、ユングの集合的無意識の違う(と現段階で思っている)点は、集合的無意識が人格の中の無意識の中の一部分を扱うのに対し、U.M.N.で扱う意識は人格丸ごとだという点です。
また、ヨアキム・ミズラヒいわく、U.M.N.は人の意識の還る場所のようです。つまり、本作の世界では、意識はU.M.N.上で死者を含めみんな繋がっているということになり、カバラの思想とも一致します。
ここで、意識を魂と同義として捉えたとき、魂というものが根本的に存在して、あの世では魂だけの存在であり、現世では肉体に魂が備わっているというキリスト教的な見方をするとしっくりきそうです。
アニマの器
[本作の設定]今のところ謎。人がゾハルに接触する際の仲立ちとなっている。
[元ネタ]“アニマ”とはラテン語で魂の意味であり、同時に、C.G.ユングが独自の概念を提唱している。C.G.ユングによれば、アニマとは男性に備わっている女性的な人格。ペルソナの対立物。
こちらもU.M.Nと同様に、本作のアニマは人格の一部分を指すのではなく、魂丸ごとを指していると考えられます。だから、アニマの器というのはラテン語訳の通り魂の器という意味でしょう。
グノーシス
[本作設定]別次元に存在する非物質的な存在。エイリアン。
[元ネタ]キリスト教などにみられる異端思想、グノーシス主義。認識、知識を意味する単語。
元ネタを調べると、真っ先にグノーシス主義の難解な情報が出てくるので、好奇心が消し飛ぶほどの脳内拒否反応が出ざるを得ません。
グノーシスは本作では、人間を脅かすモンスターであり、虚数領域と呼ばれる別次元に存在するため通常は物理的に干渉ができず、触れられた人間は死ぬか、グノーシス化するという恐怖の存在です。
「じゃあ、そのナントカ主義と関係あるの?」と言ったとき、意外と元ネタを理解しておいて損は無いんじゃないかと思うに至りました。
元ネタのグノーシス主義の思想では、人の知ることができない至高の神が”上位世界”におり、人間は本来上位世界の出身だが、この世に幽閉されていることになっています。つまり、神のいる上位世界が善で、人間のいる世界が悪ということです。
これは、前述のカバラ思想と若干異なる点はあれど似ているため、本シリーズはグノーシス主義の世界構造をカバラ思想の世界構造に流用して融合させたんじゃないかと思います。
さて、人間は霊魂が解放され上位世界に戻ることで救済されます。
本作の設定の虚数領域を上位世界だとすると、グノーシスは天使のような存在なのかも知れません、
物質世界の人間がゾハルと接触を図り、知ってはならない至高の神を覗く禁忌を犯したため、祟りとしてグノーシスが現れた。
グノーシスは、穢れた人間の魂を浄化し、上位世界へ連れて行くために人間を襲っている
と予想します。
なぜ虚数
さてさて、グノーシスと言えば虚数です。
本作には、虚数領域という概念があります。
虚数? 二乗したらマイナスになるやつ?というイメージですよね。
「小難しいこと言って、プレイヤーを思考停止させようとしているんだな!」と思ったりしますが、調べてみると、納得の理由がありました。
その理由として、まず虚数が実体のない”おばけのような数字”であるというイメージから、おばけのようなモンスターであるグノーシスの存在を表現する方法として使ったということがあるでしょう。
それだけでなく、虚数が実際に量子力学で用いられていること、さらには宇宙はじまりを説明する上で虚数が用いられていることがあります。
宇宙のはじまりとは?という問いを立てたときに、アインシュタインの一般相対性理論では説明ができず、宇宙のはじまりには虚数時間が存在したとすることで説明可能になります。
…よく分からないでしょう。僕もよく分かりません!
ただ、このことの理解うんぬんより、虚数が宇宙のはじまりを解くカギであり、物理学のロマンであるということが大切です。
本作がSFである以上、異次元の存在としてのグノーシスを表現する上でファンタジックな表現をなるべく避け、科学的な表現を用いようと努めたときに、一番リアリティがある概念が虚数だったとすれば納得です。
ところで、グノーシスはU.M.N.内にも干渉することができます。
U.M.N.つまり意識世界と虚数領域が同一のものではないかと僕は考えています。おそらく、上位世界=意識世界=虚数領域なのではないでしょうか。
実際に、ネピリムが神的な存在かつ虚数領域の存在かつU.M.N.内でよく出現することを考えると腑に落ちます。
ということは、超次元と科学を繋ぐブレイクスルーとして、虚数が使われているということですね。
ツァラトゥストラ
[本作設定]物質か非物質かすら謎の存在。Xenosaga EpisodeⅢの副題。
[元ネタ]哲学者ニーチェの著書『ツァラトゥストラはかく語りき』に登場する理想の人間像。超人。
どうやら、ツァラトゥストラは持ち出せる(物理的かは不明)らしいので、とりあえず人ではないようです。
元ネタの書籍を読んだ人からすると「ツァラトゥストラという人物が出てきて真理を語るのかと思ったら、そもそも人じゃないんかい!」とツッコミたくなるところですね。
作中では、永遠の連環と表記されていることから、ニーチェの諸概念のうち“永劫回帰”をモチーフにしたものでしょう。
永劫回帰とは、ニーチェの考えた最悪のケースです。
ビリヤード台を跳ね回る玉を想像したときに、時間を無限の時間で考えると、いつかは必ず全く同じ動きをするというのはなんとなく想像がつくと思います。
それを人生で考えたとき、宇宙が創造され消滅する無限のサイクルがあるとしたら、人は全く同じ人生を何度も歩むことになります。
その中で、人はあらゆる苦痛や快楽が全く同じ順序でやってくるのを永遠に繰り返し体験しなければなりません。
永劫回帰の恐怖は、涼宮ハルヒの憂鬱『エンドレスエイト』を観た方なら分かると思います。ちょっと違うけど(笑)
また、本作の理解において、超人について知っておいた方が良いと思うので、
飲茶氏が難解な超人の概念を見事に言い表した一文を以下に引用します。
永劫回帰の運命(人生に意味がないこと)をまっすぐ受け入れて、それでも人生を肯定できる強い人間
<出典:飲茶『飲茶の「最強! 」のニーチェ』p.163>
本作のメッセージが永劫回帰というなら、きっとシオンは過去のトラウマを受け入れることができるのでしょう。
ウ・ドゥ
[本作設定]ウーヌス・ムンドゥス・ドライブオペレーション・システムの略。U.M.N.のナビゲーションデバイス
[元ネタ]集合無意識からの派生。
エピソードⅢにおいて、シオンを何度も昏睡させ、囁き続ける超次元ストーカー。
名前を直訳すると、集合的無意識駆動システムとなるので、単なるU.M.N.のシステムのように感じますが、原初から存在した波動存在という設定です。そもそも波動存在ってなんなのかは、分かりませんが、物質に伝搬するもの、またはエネルギーというようなニュアンスだと思います。
シオンの望みを聞き、永劫回帰を誘うような口ぶりなので、人間の願望を促す存在なのかも知れません。
また、永劫回帰に誘うとしたら、ウ・ドゥはツァラトゥストラなのではないかとも考えられます。
ゾハルを手に入れたいみなさん
なんでみんなこぞってゾハルを狙っているのかという話ですが、理由は僕もまだ知りません。
物語のメインディッシュですから、最後に明かされるんでしょう!
とは言え、分かっていることを踏まえつつ推理していきたいと思います。
ヴィルヘルム
[本作設定]ヴェクター・インダストリーCEO。テスタメントを束ねる者。
[元ネタ]こいつがニーチェ。
本シリーズは、副題にニーチェの概念「力への意志」、「善悪の彼岸」、「ツァラトゥストラはかく語りき」が象徴的に使われています。
しかし、登場人物にニーチェやそれらしいキャラクターが見受けられず、はじめは物語のメッセージとニーチェの諸概念をかけているだけなんだろうと思っていました。
ところが、ニーチェの書籍を読んでいるときに、見つけてしまったのです。
わたし自身は ー中略ー フリードリヒ・ヴィルヘルムという名をつけられた。
<出典:ニーチェ『この人を見よ』>
ヴィルヘルムとググってもニーチェには行き着かないため、気が付きませんでしたが、「もうね、隠れているどころか、めっちゃ出てるじゃん!」という衝撃が走りました。
お前か!?
そう言えば、ヴィルヘルムの設定には、「彼の執務室には、ワーグナーの楽曲が流れている」とあります。
世の中の多くのものを嫌悪し、嘔吐感を催していたニーチェにして、認めていた数少ない人物がドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーでした。
そして、ヴェクターの本拠地であるコロニーが「曙光」というニーチェの著書の名を冠しており、曙光が備える兵器には「ラインの乙女」というワーグナーの楽劇にゆかりのある名前がつけられています。
これらが、「実はニーチェを登場させたんだけど、気付けるかな?」という作者からプレイヤーへの挑戦状なのだと勝手に思っています。
また、
ただし、本シリーズには、ニーチェ哲学の極意とも呼べるツァラトゥストラという存在がいるため、ヴィルヘルムをそのままニーチェとして登場させると、役割かぶりしてよく分からないことになります。
なので、ヴィルヘルムはニーチェであって、ニーチェでないのでしょう。
本作において、ロスト・エルサレム時代のヴェクター総師の名前がヴィルヘルムであり、当時のゾハル発掘のスポンサーをしています。すると、彼は4000年以上生きており、テスタメントと同様に死を超越した存在であるという疑惑があります。
彼は何をしたいのでしょうか。
本編では、ちらりちらりと現れては意味深な発言をするだけで目的は謎に包まれています。
ヒントとして、データベースに、世界をあるべき形に変えようと企てていると書かれています。
ヴィルヘルムの望む、世界のあるべき形
色々と想像してみたのですが、さっぱり分からないというのが正直なところです。
ニーチェと言えば、「神は死んだ」という言葉が有名です。近代において科学が発達し神様なんていないと皆が気づき始めたことにより、宗教に支えられていた生きる意味を人々が失ったことを指摘しています。ただし、「神がいれば良い」という話ではなく、強い者が悪で大人しく慎ましい人が善人であるという歪んだ道徳を生み出してきたという問題点を指摘しています。例えば、争いに敗れ迫害されたユダヤ人が「自分達は神に選ばれた善き民だから神が救ってくれる、自分たち以外の民族は天罰が下って死ぬ」という倒錯した価値観が一例です。
つけくわえると、宗教だけでなく自由主義、民主主義、科学信仰にも、人間の自然なあり方に反した価値観の歪みを指摘しています。
そんな、ニーチェが重要視したのが「力への意志」という概念です。伝統や架空の価値観に縛られず、純粋に「強くなりたい!」、「私はこうしたい!」と欲求しなけらばならないということです。
「じゃあ、ヴィルヘルムはどうしたいの?」という話です。
まず、ニーチェは神が本当はいないからこそ、宗教を否定したわけで、ゼノサーガの世界では神が存在するか少なくとも神のような力が存在してしまっているので、上の話が合わなくなります。
また、ヴィルヘルムはヴェクター社で科学をどんどん推進し、戦闘ロボットやらレアリエンやらをバンバン製造して、星団内の戦争ビジネスでがっぽり儲けつつ、テスタメントを使って私利私欲のために好き放題やっているので、「単純に悪い奴なんじゃない?」とも思われます。
ニーチェは自然な力の持てる者、持たざる者のヒエラルキーとして、階級社会を望んでいたので、「人類の頂点に君臨したいのかな?」とも思いますが、元星団連邦議長かつ現大企業のCEOであり、「充分じゃね?」という話です。
もうニーチェの人物像関係なく「神の力を手に入れて世界征服したいのかな?」という話もありえますが、「いや、それはちょっとストレートすぎて、もう一捻り欲しいです」となります。
ところで、テスタメントの面子を見ると、世の中と反りが合わない歪んだ思想の持ち主が集まっています。これぞ異端者でしょう。
ある意味で、力への意志を体現し、通俗的な道徳を踏み越える(善悪を彼岸する)者たち、そんな彼らを気高い存在としてヴィルヘルムは扱い、彼らを縛るもののない無秩序な世界を創り上げようとしているのかも知れません。
オルムス
[情報]ハインライン卿、マーグリスをはじめとした、移民船団を出自とする組織
[元ネタ]ユダヤ人
なぜ、彼らがユダヤ人なのかを説明するのは難しくありません。
ユダヤ人のイデオロギーとして、悲惨な歴史と選民意識というものがあります。
移民船団は約束の地”ロスト・エルサレム”への帰還を願っていますが、現実においてもエルサレムというのは、ユダヤ人にとって約束の地です。
移民船団はロスト・エルサレム消滅後、長い放浪の旅を経たのち、星団連邦と接触し迫害されるという境遇に遭っています。また、移民船団はゾハルを守護する民「ゾハルの民」としての選民意識を持ちます。
これもまた、ユダヤ人の境遇と一致しています。
ユダヤ人はかつてエルサレムの地を追われ、その後2000年の長きに渡り彼の地へ還ることが叶いませんでした。そして、近代において神に選ばれし民族であるユダヤ人が神に約束された土地エルサレムに還るシオニズムというイデオロギーが掲げられています。
オルムスの目的はロスト・エルサレムへの帰還ですが、問題はハインライン卿です。
ハインライン卿はEPⅢ中盤においても顔を出しておらず、正体不明な存在であり、マーグリスに対し有無を言わせぬ扱いをしていることから、どうも違和感を覚えます。
ハインライン卿自身は別の目的があってオルムスを利用しているだけなのではないでしょうか。
その目的はいずれ分かると思いますが、気になるのはその正体です。
この物語の終盤で「はじめまして、私がハインライン卿です」と新キャラが登場するとは考えにくいので、すでに登場している誰かがハインライン卿である可能性が高いと踏んでいます。
とは言え、なかなか適格者がいないことからヴィルヘルムかディミトリあたりが怪しいと思っています。
ディミトリ・ユーリエフ
[本作設定]遺伝子調整され生まれた人間。連邦軍部の有力者。ミルチア紛争時に死亡。
[元ネタ]不明。人工的に創られた神?
ディミトリはJr.などU.R.T.V.という遺伝子操作された人間を生み出したこと印象的ですが、実は彼自身遺伝子操作により生まれた人間です。
そして、U.R.T.V.を使ってウ・ドゥを消滅させようとしていたことから、ウ・ドゥの存在を知っており、ゾハルの謎についても核心を掴んでいそうな雰囲気を漂わせています。
また、彼がガイナンの意識に憑依している場面で、彼とウ・ドゥが同じであるかのような演出がされていたため、彼は死後に意識体となりウ・ドゥと同一の存在となったのかも知れません。
となると、「ウ・ドゥってなんだよ。」、「ツァラトゥストラじゃないんかい。」となるため、混乱してきます。
おそらくですが、ウ・ドゥは波動存在の総称のようなもので、特別な能力を持つものがウ・ドゥとして存在できる、そして、ツァラトゥストラとディミトリは別のウ・ドゥなのではないでしょうか。
さて、ディミトリは何の喩えでしょうか。
ディミトリは科学技術により生み出された”人間を超越した者”であり、科学で神の力に取って代わろうとする思想を体現していると思います。まさに近代において遺伝子工学や生体工学が進歩し、人間に手を加えることによって優れた人間を生み出すことができるようになってきています。その倫理的問題を揶揄するSF作品は多くあることから、本作においても同様の意図があるのではないかと思います。
自分の利益のためなら倫理を無視しても構わないと考える野心的な人間、それがディミトリでしょう。
味方も謎だらけ
敵勢力の謎に触れたところで、本作は味方のキャラクターも謎が多いという問題…いや、魅力があります。
敵よりも味方の方が、正体を掴みかねているところですが、稚拙ながら触れていきたいと思います。
シオン
[本作設定]元ヴェクターのKOS-MOS開発プロジェクト主任。虚数領域が見える。
[名前の由来]エルサレム地方の地名シオン。
ユダヤ人について調べてみると、シオンの名前の由来はユダヤ人の約束の地シオンで間違いないと思いました。
エルサレムとシオン(地名)との関係ですが、エルサレムの神殿の丘にユダヤ教の聖地である嘆きの壁があり、神殿の丘のことをシオンと呼びます。また、ユダヤ人からすれば、エルサレムとシオンは同義のようです。
現代において、「ユダヤ人よ!シオンの地へ還ろう!」というスローガンがあり、それをシオニズムと言います。
この名前から、シオンは本作においてロスト・エルサレムに還るカギと考えるのが自然です。
実際、ヴィルヘルムがシオンとKOS-MOSのことを指して13番目の鍵と言っていたことからも、裏付けられます。
また、移民船団が持つとされる特殊能力をシオンがもっていることや、シオンの父スオウがオルムスと共謀していたことを考えると彼女のルーツは移民船団系にあるのではないでしょうか。
カナン
[本作設定]特殊レアリエン
[名前の由来]神がユダヤ人の祖アブラハムに与えると約束した地カナン。
はい。また、約束の地です。
カナンはエルサレムを含んだ中東のより広い地域のことを指しますが、本作においては関係ないでしょう。
なので、ゼノサーガを遊ぶ上では、約束の地=エルサレム=シオン=カナンという理解で充分だと思います。
カナンには本人の知らない秘密の司令がプログラムされており、シオンを監視するよう動機づけられています。
そのプロジェクト・カナンと呼ばれるプログラムは、ドクトゥスがヴェクターから奪ったデータを調べて見つけたものであり、ヴェクターで作られたものだと考えられます。
となると、ヴェクタートップのヴィルヘルムが怪しいですが、ヴィルヘルムは秩序の羅針盤でシオンの様子が見えるので、わざわざカナンを使って監視する必要があるのか疑問です。
シオンたちにとって恐ろしいことは、カナンによる情報流出より、カナンが操り人形にされて敵に利用されることでしょう。
ネピリム
[本作設定]虚数領域に存在する少女。シオンに度々助言を与える。
[名前の由来]旧約聖書より、天使と人の間に生まれた者。(巨人)
ネピリムは本来巨人なのですが、本作において少女の出で立ちをしています。
本シリーズにおいては、天使と人間のハーフがポイントなのかもしれません。
と言っても、ネピリムは天使と人間のハーフなのではなく、立場として神と人間を仲立ちしていると考えます。
ネピリムは、神の領域である上位世界=虚数領域にいて、神の目線で世界を観ている。それと、同時に人間を救いたいという思いから、人間世界のシオンに働きかけているのだと思います。
彼女はなんなのか。
グリモアがネピリムを探し続けていたことから、人間との接点がある。つまり、最初から上位世界の存在ではないのだろうと思います。
もともと人間だったが、特殊な能力を持っていたため神の世界に干渉してしまい、虚数領域を彷徨う存在となったというところでしょう。
もしかすると、ネピリムとシオンは似た境遇なのかも知れません。とすれば、グリモアはスオウのような立場なのかも。
ケイオス
[本作設定]全てが謎に包まれている少年。
[名前の由来]カオス(混沌)。
「“混沌”の名を持つ少年」と説明書に書いてあるので、ここまでは公式でネタバレ済みです。
皆さんご存知、僕も大好き混沌=カオスが元ネタで間違いありません。ちなみに、英語で発音するとケィオスになるということです。
カオスとは宇宙(コスモス)が生まれる以前の、無秩序状態を指します。
秩序という言葉が本シリーズではキーワードであり、秩序をコスモスと表記していることから、KOS-MOSが秩序であり、対になる無秩序がケイオスのことであると暗示しています。
ヴィルヘルムの持つ秩序と混沌の羅針盤において、混沌のリングが機能せず、秩序の羅針盤のみ機能していることから、ケイオスが隠している力を発揮することで羅針盤がピカーッと輝き、「ふふふ、宇宙の真理への道が開いたぞ…」とヴィルヘルムがほくそ笑む展開になるのではないでしょうか。
ケイオスの異能っぷりを象徴するシーンとして、人が触れられないはずのグノーシスに触れて消滅させるという出来事があります。
ここで、グノーシスを本記事の通り、上位世界から来た天使と考えた場合、ケイオスはグノーシスをどうにでもできる存在、つまり神なのではないかという疑いが生じます。
本シリーズにおいて、ケイオスが本作の核心について心得ているような発言をするシーンが散見されることからも裏付けられます。
ケイオスが神だとすれば、混沌の名をもつ彼は宇宙の破壊を司る存在になるでしょう。物語のクライマックスでは宇宙が消滅するかも知れませんね。
また、ヴィルヘルムはケイオスのことをイェオーシェアと呼んでいます。旧約聖書にヨシュアというユダヤ人の指導者が登場するのですが、ヨシュアをヘブライ語で発音するとイェオーシェアとなります。
これもまた、元ネタがすぐ分からないように、ぼかして表現するという作者の技巧ですね。
ヨシュアは、イスラエル人(ユダヤ人)が約束の地カナンに住めるようにもともと住んでいたカナン人をジェノサイドして征服したとされています。
で…、なんでヨシュアなのかが検討がつきません。ケイオスが本シリーズにおけるユダヤ人「移民船団」と由縁があるようには思えないので、ユダヤ人の英雄というヨシュア像は当てはまらないように感じます。
もしケイオスに世界を破壊する力があるとすれば、ヨシュアが神の命令に従ってカナンの地を征服したように、ケイオスも神の名の下に世界を破壊した過去があるということでしょうか。
KOS-MOS
[本作設定]ヴェクター社製女性型アンドロイド。ケビン作。
[名前の由来]宇宙(コスモス)。ギリシャ語で秩序の意。
本シリーズのヒロイン。
で、終われば話が早いのですが、彼女も謎多き存在です。
1作目からヴィルヘルムなどの登場人物と同じくちらりちらりと不審な演出がされています。
混沌と対をなす“秩序”としての存在、そして時間と空間すべて含む宇宙という名を与えられた者。
名前だけから察するに、KOS-MOSは宇宙を創造する力があるのではないかと思います。
そういう理由で、僕はKOS-MOSが創造神であり、カバラやグノーシス主義における至高神としての役割を担うと睨んでいます。
KOS-MOSと言えば、浮遊大陸でT-elosと繰り広げた戦いが印象的です。
T-elosはKOS-MOSのことを「空虚な器」となじっていました。なぜならKOS-MOSには本当の人格がないからでしょう。(補足として一応、模擬人格は搭載されています。)
そうなると、終盤KOS-MOSに意識が生まれる、もしくはU.M.N.に存在する誰かの意識がKOS-MOSに入ることで、秩序を生み出す力が発現するのではないでしょうか。
シオンと同じく13番目の鍵だったKOS-MOSはシオンの感情の高ぶりとともに隠された力が表出し、過去の世界に皆を転移させますが、過去の時間と空間をある意味創造したとも理解できます。
また、前作において、KOS-MOSがグノーシスを吸収するというシーンがありました。
そのような、物理世界を超越した能力を持っていることも神に近い存在だと考えられる理由のひとつです。
その他
浮遊大陸の碑文
レンヌ・ル・シャトーを調査していたときにJr.が見つけた碑文がありました。
『視よ 大いなる地震あり これ主の使ひ 天より降り来たりて かの石を転ばし退け その上に坐したるなり』
この文章、なんだか大仰な言い回しな上、物語から意味を推測することもできなかったため、消化不良すぎて胸焼けと胃もたれに苦しんだような、苦しまなかったような気がします。
その後調べたところ、新約聖書のマタイ福音書に該当する文章が見つかりました。
安息日のすんだ後、週の初めの日(日曜日)の明け方に、マグダラのマリヤともう一人のマリヤとが墓を見に行った。すると突然大地震が起こった。それは主の使いが天からおりて来て墓に近寄り、入り口の岩をわきにころがし、その上に坐ったのである。
<出典:『新約聖書 福音書』(岩波文庫)>
さて、これを読んだところで、新約聖書を読んだことのない方は意味が分からないでしょう。
この一節は、イエス・キリスト(イエス)が十字架に架けられて死んだあと、イエスの墓を見に行った二人のマリヤの前に天使が現れ、イエスが復活したことを告げるシーンです。
これでも、本作においてこの文章が何を指しているのか、僕はまだ分かりません。
推測する材料として、古代遺跡を抜け、何者かの墓に入ると、テスタメントが我らの姫君と呼び囲んでいた棺と十字架があります。そして、その後、T-elosとの対決ののち空間転移が起きるという展開になります。
データベースにはレンヌ・ル・シャトーには聖女が眠るとされていることから、聖女の復活を暗示しているのではないでしょうか。
ヴィルヘルムたちはゾハルを手にするために聖女が必要なので、シオン達を襲った。
きっと、シオン達が過去のミルチアを脱出したら、聖女が目覚めるのではないかと思います。
現在理解不能
- ハインライン
- グリモア
- アベルの方舟
- 天の車
- テスタメント
もし、正体に目星がついたら追記しようと思います。
物語の展開を推理
さあ、以上の事柄をまとめて、EPⅢ中盤以降の物語の展開をざっくりと推理したいと思います!
シオンたちは過去のミルチアをなんとか脱出するものの、レンヌ・ル・シャトーに封印されていた聖女は復活してしまう。もしくは、シオンが聖女になる。
その頃、惑星ミクタムにおいて、ツァラトゥストラを狙って、ディミトリによる侵攻が行われていた。
ディミトリはツァラトゥストラを手に入れることに成功し、メルカバ、オメガの力で世界の覇権を得ようとする。
ディミトリはシオン達とヴィルヘルム達に倒される。
E.S.のアニマの器の共鳴が起こり、12体のE.S.と聖女が揃った段階で、ロスト・エルサレムへ全員転送される。
マーグリスらはロスト・エルサレムへの帰還を喜ぶが、オルムスに神の救いは訪れない。
ロスト・エルサレムにあるオリジナル・ゾハルをヴィルヘルムたちが手に入れ、起動する。
神の命により、ケイオスが破壊の力を発揮し、世界の終末が訪れる。
世界の終末から生き延びるには、神の遺産”アベルの方舟”に乗らなければならない。そこで、秩序と混沌の羅針盤が輝き、アベルの方舟を召喚する。
アベルの方舟でラストバトル。
ツァラトゥストラはヴィルヘルムに「世界を変えることを目論んだ者はお前が初めてではない、かつてオルムスたちの先祖は同じ願いを抱き、前の世界崩壊から生き延びた者たちだ」という感じで、運命が回帰していることを告げ、今の世界を受け入れずに否定する姿勢にNGを突きつける。
崩壊してしまった世界で、シオンは自身の過去と葛藤し、人生のあらゆる苦しみ、悲しみを受け入れ、世界の復活を望む。
KOS-MOSに秩序の力が芽生え、宇宙を再び創造する。
エピローグで少女シオンが再び人生を歩み始める様子が流れる。
ここまでが妄想でした!
いかがでしたでしょうか。こんなしょっぱい推理を読んでくださった皆さんありがとうございます
推理はしたものの、この予想が当たって欲しいかと言えば、必ずしもそうとは言えません。
僕としては、
ツァラトゥストラに永劫回帰だけでなくもっと真理を語って欲しい!
ヴィルヘルムがヤクザの親分で終わるのではなく、ニーチェ並のスケールのデカさを見せて欲しい!
シオンが過去を乗り越えるだけじゃなくて、もっと雷に打たれるような大切な価値の発見をして欲しい!
KOS-MOSに心が芽生えて欲しい??…かと言えば、僕は正直ロボットに心が芽生えて感動というSFあるあるは嫌だなーと思っているので、機械の生命観について本作なりの別の見せ方を期待したい!
アレン君が脇役で終わらず、イイところを用意してあげて欲しい!
と思っています。
本作がこれからどんどん予想を裏切ってくれることを楽しみに後半プレイをしていきます!
参考書籍
[ニーチェ関連]
- ツァラトゥストラはこう言った(岩波文庫)
- この人を見よ (1969年) (岩波文庫)
- 善悪の彼岸 (光文社古典新訳文庫)
- 道徳の系譜学 (光文社古典新訳文庫)
- 飲茶の「最強! 」のニーチェ
- NHK「100分de名著」ブックス ニーチェ ツァラトゥストラ
[宗教・歴史関連]
- ユダヤ人の起源: 歴史はどのように創作されたのか (ちくま学芸文庫)
- 創世記(旧約聖書) (岩波文庫)
- 新約聖書 福音書 (岩波文庫)
[用語関係]
- 自我と無意識 (レグルス文庫)
- グノーシス (講談社選書メチエ)
- Newtonライト2.0『虚数』 (ニュートンムック)
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